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音小屋大阪生が選ぶ!2013年ベストアルバムvol.7 (吉田紗柚季)

2013年ベストアルバム:tofubeats『lost decade』
 ベストアルバム記事とは名ばかりのトーフビーツ考察 ~J-R&Bとネット音楽活動、2点からの再確認~



Amazon.co.jp: lost decade: 音楽
http://www.tofubeats.com/

 2012年7月、神戸に住むほとんど無名の大学生がリリースした1枚のEPが、突如iTunes Music Storeチャートの1位に登りつめた。トラックメイカー兼DJ・tofubeatsの『水星 EP』である。リード曲で本作にも収録されている「水星 feat.オノマトペ大臣」は"2010年代の「今夜はブギーバック」"との呼び声高く、ネット社会に生まれついた私たち若年世代の名曲だ。


「i-pod i-phoneから流れ出た データの束いつもかかえてれば/ほんの少しは最先端 街のざわめきさえもとりこんだ」


 (おそらく)中学時代に2chスレでDTMの作り方を覚え、高校在学中にはインターネットレーベル・Maltine RecordsbandcampSoundCloudなどで多くの楽曲を無料公開、これまでYUKIやももいろクローバーのリミックス、清純派HIPHOPアイドルLyrical Schoolの楽曲制作などクライアントワークもこなしながら精力的に活動してきた彼。昨年11月には森高千里との子(神聖かまってちゃん)をゲストボーカルに迎えたEP『Don't Stop The Music』で、きゃりーぱみゅぱみゅやパスピエらも所属するワーナー内のレーベル・unBORDEからメジャーデビューした。本作はその前に出されたインディーズ時代最後のフルアルバムで、昨年春に大学を卒業した本人曰く"卒業制作"らしい。


 本作の収録曲それぞれにはtofubeats自身のあらゆるルーツミュージックが凝縮されていて、大きく3つのジャンルを取り持つ珠玉のポップアルバムになっている。一つはいかついビートにSKI-HIのラップが冴え渡る「Flesh Salad feat.SKY-HI」や、刻まれたボーカルが浮遊感あるシンセ音に乗る「I don't care」など、枝分かれする様々なジャンルを緻密に取り込んだヒップホップやクラブミュージック。一つは「SO WHAT!? feat.仮谷せいら」「LOST DECADE feat.南波志帆」といったアイドルソングを下敷きにしたキュートなガールポップ。そして、前述の「水星 feat.オノマトペ大臣」や「No.1 feat.G.RINA」、「夢の中まで feat.ERA」といった邦楽らしいメロウなナンバーだ。特に最後の一要素はヒルクライムや加藤ミリヤ、最近ではLGYankeesなどのJ-R&BやJ-HIPHOP界隈と確実にリンクしており、それでいてポップスとしてとても普遍的な深さと叙情性をたたえている。

「君は誰のものでもない そう知ってるけど/始まった恋を止めるには もう遅いね」
 …90年代生まれ特有の虚無感の上で夢を抱く、万能感の低いセンシティブな歌詞も彼のソングライティングの特徴。


 今号のQuick Japan(vol.111 - 2013年12月発売号)に掲載されているtofubeatsと髙城晶平(cero)の対談記事には、そのことについて髙城からの指摘がある。

髙城「僕tofuくんの音楽を聴いて思ったのが、ヤンキーが視野に入るってことなんですよ。そこまで激ヤンキーじゃなくても、潜在的ヤンキーって日本の大半を占めると思うんですよね。そういう人も聴いてくれそうな気がして。」
tofu「そこはちょっと意識してて、みんなにわかってもらうために、間口を広げようっていう……J-POPっぽいのを作ろうと思ったきっかけもそこで。ちゃんと身の回りの人に褒めてもらいたいと思ったら、こういう風にしないと聴いてもらえないっていう。」
(中略)
tofu「前にタトゥーショップで知り合いの横にいた夜の仕事をしているギャルが「最近tofubeats聴いてる」って言ってたらしくて、これは嬉しいぞと思って(笑)。ギャルがよくわかんないまま「ジューク(※1)っていうらしいんだよね」って言って聴いてるぐらいがちょうどいい。」


 ロックシーンやインディーポップシーンの音楽に馴染む(特に若年層の)リスナーの多くは、一度は昨今のR&Bやヒップホップ系J-POPの隆盛に敬遠や諦念を抱いた経験があるのではないだろうか。いわゆるサブカル界隈のアーティスト達の多くもまた、長らくこの"潜在的ヤンキー"という一大派閥をリスナー候補から外してきた。ツタヤのレンタルランキングで様々な女性歌手や男性ラッパーに牙城を築かせるそういった人々と同じ音楽を愛せるかもしれない、というのは、私達のようなリスナーにとってこの頃あまり考えられなかったことだ。彼越しにそういった音楽の豊かな可能性が見えてくる、それだけでひとつグッとくる話である。いま日本の音楽業界に横たわる一番大きな"ムラ"の境界を、tofubeatsの作る音楽は飛び越えられるかもしれないのだ。


 tofubeatsの持つ洗練されたポップ感覚は主に90年代、音楽業界が最も奮っていたころのJ-POPに拠るもの。長年神戸に住み続けてきた彼にとって一番身近で安価な音楽のアーカイヴとは、地方に住む人びとの多くがそうであるように、ツタヤのくたびれた古いアルバムやブックオフで数百円で叩き売られる中古盤たちだった。彼はメジャーデビューを果たしたあとも神戸に住み続けることを選び、その理由についてはいくつものインタビューで語っていて色々な角度からの理由があるようだが、なにも彼だけではない。一昨年京都に帰郷したくるりをはじめ、京都在住のモーモールルギャバン、沖縄在住のHY、青森在住のamazarashiなど、今の時代に上京するメリット/デメリットを考え、住み慣れた地を選ぶアーティストは少なくない。とりわけtofubeatsの場合、高校時代からすでに活動基盤の大部分をインターネットに置いていたのが大きかったのだろう。今年で24歳になる彼の世代は物心ついたころから家にパソコンがあったという人も珍しくはなく、小学生ごろには地方でも今とさほど変わらないブロードバンド環境が普及していたことになる(※92年生まれ岡山在住の筆者の記憶と独自調査)

 冒頭にも書いたように、tofubeatsはこれまで様々なサイトを使い楽曲を"無料で"公開し続けてきた。以下はototoyのインタビューからの抜粋だ。

「全部配ってて全部聴けるみたいな過剰供給で、先に好きになってもらうのがいいなって。tofubeatsってなんだろうって思ったときに、すぐにアクセスできる音源がどれだけあるかっていうのが、好きになってもらえるポイントなんです。」

「僕が音楽を買うときに聴かないと買わないんですよね。YouTubeで聴いて、「いいじゃん! iTunesで買おう」とかそういうモチベーションじゃないですか。この人にお金を払いたいって思わないと買わないですよ。しかも、どっちつかずの人っているじゃないですか? なんか聴きたいけど、金払う程でもないっていう。そういう人には、聴いてもらったほうがいい。それでまた次に良いのが出たら買ってくれればいいし、その人が石油でも掘って金が増えたら買ってくれればいいんですよ。お金は貰ったほうがいいんですけど、ないんだったら払わなくてもいいから聴いて欲しいんですよね。そっちの方が僕にとっても、その人にとっても得じゃないですか。そこが30秒しか聴けなかったら、どっちも得しないでしょ。その人にただでもいいから「tofubeatsいいよ」って言われた方がいいし、その人の友達がCDを買ってくれたらいいんですよ。2人でリッピングして分けたらいいし、メディア・ファイヤーに出回ろうが、なんだってかまわないんです。今はそういう風にどこかを守って、買ってもらうっていう時代じゃないじゃないですか。コピー・コントロールCDとかもそうですけど。僕は性善説を信じきって、一回これをやってみたかった。」


2012年作『summer dreams』。彼の過去作の多くは今もマルチネや音楽系SNSで無料で落とせる。ぜいたくだ。

 彼の活動スタイルにはネット社会で育ってきたニューエイジならではの視点がクッキリ現れていて、同時にネット関係の音楽の諸問題に対する必然的な結論を含んでいる。
 情報源としてのインターネットは単なる"手軽に調べられる便利ツール"ではなく、情報と日常がごった返す海の中で一つの情報やコンテンツ、いわば一匹の魚を探しだす"素潜り漁"は意外と骨が折れたりする。そしてそんなことをせずともただタイムラインの波に揺られ、適当にやってくる小魚的な動画や記事を捕まえているだけでもそこそこ楽しく過ごせてしまうのだ。"潜って魚を獲りまくる楽しさ"はそれこそレコード屋で中古盤をあさるのと同じように、一部の人の趣味にはなっても多くの人々の日常的習慣にはなりにくいのが実情だろう。SNSの普及でネット人口は増えたが、みながみな能動的にYoutubeやSoundCloudにアクセスするわけではない。
 そんな環境のもと自分の作品で消費行動を起こしてもらおうと思うなら、たまたまでも潜ってでも、何かの縁で拾い上げてもらった時に総力でアタックをかけるしかない。そのアタック(無料配信の多さ)が楽曲の質やクライアントワークの多さとも相まって最も成功したのがtofubeatsだといえる。ただ彼がこれまでそういった"攻めのフリー思想"(※2)を貫いてきたのはあくまで個人の活動の範囲でであり、商業音楽という場所で彼のスタイルがどう働くかはまだ未知数。彼自身、それを試しにメジャーデビューしたのだろう。

 サブカル、アイドル、メジャーシーンといった今ある音楽"ムラ"の境界線を幅広くカバー、かつそれを超えて世の人々に響きわたるであろう普遍的なポップネスを持ちながら、インターネットの特質を世代特有の感覚で取り入れた新しい商業音楽のありかたを模索しているtofubeats。彼と彼の楽曲群はまさに2013年の顔、楽曲面でも活動面でも今一番"ワクワクさせてくれる"トラックメイカーなのだ。(吉田紗柚季)



※1ジューク…シカゴ発祥の高速なダンス・ビートのジャンルの一つ。
※2攻めのフリー思想…
レジーのブログ 【2013年総括】マイ年間ベスト特別企画:tofubeatsインタビュー 「今年の顔」の胸の内の形容を引用させていただきました。
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